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私が小学生のときです。

矢野顕子嬢がDJをしていた「若いこだま」に高中正義氏がゲスト出演し、新譜の「TAKANAKA」が特集されました。子供ながらに衝撃が走り、自分もギターが弾きたいと思いました。しかしお小遣いは月に千円もなく、子供がアルバイトをするような場所もありません。


住んでいた町には楽器店はなく、隣の街の楽器店は子供がヒョイと入れるような雰囲気ではありません。親と一緒に街に出たときに、ショーウインドウ越しにエレキギターを見つめるのが精一杯でした。


中学生のある日曜日、ギターを買ってやると父親が突然言いました。そして郊外にあるディスカウントショップで、父親の買い物のついでにギターを買ってもらいました。無名メーカーのフォークギターです。当時はニューミュージックが流行っていたので、ギターといえばフォークギターのことでした。

天井から吊り下がっている何本かのギターの中から、どう選んだのかは記憶にありません。エレキギターはダメだということで、選択肢はほぼなかったように思えます。


思い返すと、まるで円柱を二つに割ったような丸くて太いネックでした。しかし比較仕様もなく、ギターのネックはそういうものだと半ば信じていました。

入手して間もなく弦が切れましたが、せめてもとエレキギターの弦を張りました。エレキの弦はフォークの弦よりも細くて柔らかいので、Fコードで挫折はしませんでした。しかしナットの溝が太かったせいで、いつも音がビリついていました。


フォークギターの教則本を買いましたが、興味のない歌ばかりでした。妹が買ってきた芸能雑誌のソングブックを見ながらジャカジャンと掻き鳴らしましたが、歌伴がしたいわけではありません。


やがて高中正義氏のブームが到来して、譜面も売られるようになりました。

お小遣いを貯めて譜面を購入し、やっと希望が叶うと喜んだものです。しかしカッタウェイのないフォークギターではハイボジションのフレーズは弾けません。ローポジションで弾けるフレーズだけは繰り返し練習していました。


高校入学を機にエレキギターを入手してからは、天袋に入れたままでした。帰省した折に手持ち無沙汰で引っ張り出して弾くこともありましたが、数年前の改築のときに粗大ごみとして処分されたようです。私にとって記念すべきギターのはずですが、惜しむ気持ちは不思議と湧きませんでした。


(イラスト・ポップさんからイラストをお借りしました。)
https://illpop.com/png_musichtm/keyboard_a15.htm